18.ニョッキとチョッキ



私の本に「ごちそうびっくりばこ」というのがあります。奇妙なごちそうがいっぱいでてきます。今回の角野さんちの晩ごはんは、この奇妙なごちそうの一つをご紹介しましよう。ちょっと長いけど、読んでくださいね。


 ローマでわたしが会った修道女さまは、ちょっと変わっていました。どう変わっているかというと、なによりも歌をうたうのがすきなのです。修道女さまですから、もちろん朝夕のお祈りと賛美歌は欠かしたことはありません。ユリの花のような白い帽子をふるわせて、もちろんもちろん、この修道女さまは、はりきってうたいました。でも変わっているのは、そのことではないのです。この修道女さまは神さまにおつかえする身なのに、ちょっとばかり下品な歌をつくってうたうのが大すきなのでした。たとえば、こんな歌です。
「となりのおやじさん
 わかいねえちゃんが 大大大すき
 朝からタキシード エナメルのくつ
 口をひらけば アモーレ アモーレ
 そしてすまして スパゲッティ作り
 それもそのはず スパゲッティ屋さん
 マンマミーヤ
 粉だらけのおしゃれさん」
 修道女さまは、調子に乗るとなん回もくりかえしてうたいます。修道院からこんな歌がきこえてくるのですから、町の人はびっくりです。とうとう修道女さまは、ふかくふかく反省しました。
「おー神さま、たいへんご迷惑をかけます。罪ぶかいこのわたしの口をばっしてくださいませ。どうしても心がはずんできて、歌をうたってしまうのです。どうぞ、わたしを無人島にでも送ってくださいませ」
 でも神さまは、無人島にはお送りになリませんでした。わたしのはたらいていた修道院の台所にお送りになったのです。修道女さまの話によると、お祈りに出てきた神さまは、「うたいたけれぼ、食べものの歌をうたっておくれ。そのほうがわたしも楽しい」と、おっしゃったというのです。神さまのおゆるしが出たのですから、もうたいへんです。修道女さまの歌にならない食べものなんてありませんでした。そのせいか、この台所では、おなべのふたはにえたつと三拍子でなるようになり、水道からはトランペットのような音が出るようになりました。
 たとえばトマトの歌。この歌はもう、しよっちゅううたわれました。すべての道はローマに通じるように、すべてのイタリア料理はトマトに通じるのですから。
「おっととと トマト
 とくいになるな トマト
 とんでにげるな トマト
 とどのつまりは トマト
 とまるのなら トマト
 おなべの中にしておくれ
 トラックとトマトは べつのもの」
 メキシコ料理のチリコンカルネ、豆と肉のからいスープからは、こんな歌ができました。
 「メキシコの教会 でかねがなる
 チリコンカルネ
 すきっばらでも かねがなる
 チリコンカルネ」
 さぞかし、神さまは大よろこびでしょうよ。こんな歌も生まれました。
 「ニョッキがチョッキきた
 うそ! うそ! 
 チョッキがニョッキたべた
 うそ! うそ! 
 ニョッキとチョッキ
 チョッキとニョッキ
 いつもなかよし
 なぜ? なぜ?」
 ほんとうに、なぜでしょうね。それではイタリア料理のニョッキを作ってみましょうか。
 まず、じゃがいもをやわらかくゆでて、あついうちにつぶします。粉チーズに卵にこむぎ粉、塩にこしょうを入れて、おもちみたいにこねまぜます。それを左手ににぎって、親指と人さし指の間から、ニョッキと出して、右手でチョッキと切るのです。ニョッキ、チョッキとぜんぶ切ったら、ゆでて、トマトソースと粉チーズをかけて……いただきまーす。
 さて、なぜ? なぜ? おわかり?

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